瀟湘八景図 ①
歌川豊広《江戸八景 佃嶌帰帆》 江戸時代18世紀
この絵は瀟湘八景をアレンジした、江戸の八景のひとつ、佃島に船が帰る様子を描いたもの
ところで、瀟湘八景て?
そこで、瀟湘八景について少しメモします
瀟湘とは中国湖南省を流れる瀟水と湘水という河のあたりの地域名です。これらが合流して洞庭湖になりますが、洞庭湖の景色も瀟湘八景にあります。
洞庭湖といえば、そこに浮かぶ君山で産する黄茶が有名。ちなみに、紛らわしいですが、洞庭碧螺春は江蘇省蘇州市の太湖という湖の洞庭東山と呼ばれる半島に産するお茶で、湖南省の洞庭湖とは違う地域のものです。
その、中国有数の景勝地を、北宋時代後期(11世紀)の画家、宋廸(そうてき)が、
八通りの景観を創始したと言われており、これが瀟湘八景のはじまりです。残念ながら宋廸が描いた瀟湘八景図は遺っていませんが、その主題とした八景は、今も多く描かれています
その八景は次の通りです
〔画は「名勝八景 憧れの山水」展図録 令和元年 出光美術館」からあげました。
元の画は《瀟湘八景図屏風》伝周文 室町時代)
山市晴嵐(さんしせいらん)
山間の市の賑わい。市がたっていることを示すように、旗が描かれることもある
瀟湘夜雨 しょうしょうやう
瀟湘の上に寂しく降る夜の雨の風景で、夜にしとしと降る雨を描きます
遠浦帰帆 えんぽ きはん
帆かけ舟が夕暮れどきに遠方より戻ってくる風景。遠く湖上を帆船が行き交うさま
漁村夕照 ぎょそん せきしょう
夕焼けに染まるのどかな漁村の風景。
洞庭秋月 どうてい しゅうげつ
洞庭湖の上に浮かぶ秋の月。
平沙落雁 へいさらくがん
雁(秋の渡り鳥)が砂浜に舞い降りてくる風景。
江天暮雪 こうてんぼせつ
山に雪が降り積もるさま
煙寺晩鐘 えんじばんしょう
ひっそりとした山あいの寺の鐘が鳴るところ。ゴーンという鐘の音を想像しながら、みると感慨深い
どの景観も四季や気象、時刻など、バラエティーに富んだ場面となっています。
京都大徳寺聚光院の礼の間の襖には瀟湘八景が描かれています。じっくりみると、それぞれの八景が盛り込まれており、その一角に江天暮雪 があります
ちょうど、部屋の角に当たる部分で、その襖を開けると、別の部屋になります
そして、その別の部屋の、この江天暮雪 の、雪山の裏に当たる部分は
雪山の雪が溶け出し、山を流れる水流になるという、とてもドラマチックな仕掛けがあります
この水流の先、右方向は大きな梅が咲く春へ。左方向は仏間を挟んで秋の湖畔になるが、仏間には、鯉が泳ぐ水中の風景が描かれ、雪解け水が流れた先を連想させる仕掛けとなっています。
残念ながら、聚光院は通常非公開のため、現地でじっくりみることが難しいのですが、この素晴らしい襖絵とともに、凝った空間演出を、ぜひ味わってほしいです
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